平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
貴雄様に?
いったい、どおして?
何方か消してしまいたい方が、居るという事なのだろうか?
…それとも貴雄様が忍の事を…?
どんどん深く考えてしまうアタシを、少しも気にも止めずに忍は続ける。
「まったく、私はこんな所にいる様な人間では無いというのにっ」
「私にも、兄上から言われたやるべき事があって、都に下りて来たのに」
ぶつくさと文句を垂れている忍の言葉に、引っ掛かりを覚える。
「やるべき事?」
アタシが尋ねると忍は、「そうよ」と一つ頷き眉間に皺を寄せる。
「今回は大物でもなんでもない、下級貴族の蹴落としあいよ……それともう一つ、某貴族の姫の入内を阻止し、此方に連れて参れ」
「某貴族の姫、ねぇ…」
アタシがため息をつくと、忍もやれやれと言った感じて頭を押さえた。
「いい加減、諦めて下さったらよろしいのに」
苦笑すりアタシに忍も、うんうんと同意する。
「私もこんなお姉様はいらないわ」
ふんっ、と馬鹿にした態度をとる忍を軽く睨み付ける。
「…で、何故連れて来られたの?」
アタシがそう聞くと、先程アタシが投げ返した刃物を懐にしまいながら、面倒くさそうに答える。
「…面白そうだから、だそうよ」
「面白そうだから…」
「ええ」
アタシがそう繰り返すと、忍は面倒くさそうに頷き「とにかく、貴女には用は無いの」と去って行ってしまった。
アタシは一人でもう一度呟いた。
貴雄様らしいと言ったら、貴雄様らしいのかもしれない。そう思うとまた苦笑してしまう。
「……面白そうだから…」