平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
この夢は知っている。
以前四の君の負の念を、自分の身体の中で浄化している時に見た、不可解な夢だ。
若い女性が足下で倒れているのだ。
アタシはその場に膝を曲げ、あの時と同じ様に女性に手を伸ばす。
……大丈夫、今は四の君の負の念は身体に残っていない。
慎重に伸ばした手が、女性の身体に触れる…
「っ」
触れた瞬間、アタシの全身の毛が逆立ち、女性の正体を確かめる間もなく目が醒めた。
ばっと、隣を見ると貴雄様が静かに寝息を立てていた。
ほっと息をつき、冷たくなった自分の身体を抱くようにしてもう一度息をつく。
しかし、身体は冷えて行く一方で、脈もどくどくと早くなっている。
静かに深呼吸をし、脈を整えようとするが、逆にぞわぞわと何かが足元からはい上がってくる。
そこでようやく、はっとする。
急ぎ印を結ぶが、
「っ間に合わなっ」
足元から上がって来た何かに、胸が潰れるような力で縛り上げられる。
「ん……くぅっ」
苦しさから、目に涙が滲む。
自力でなんとかしなくてはいけない。
柏手を打とうするが、腕が鉛のように重く容易には動かせない。
身体もどんどん、熱を帯びていき横になっているだけなのに、何とも言えぬ怠さを覚える。
駄目だ……意識が途絶える…
苦痛で顔を歪めた時、唐突に理解した。
夢の中の女性は、アタシだったのだ。