平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
声のする方を見ると、柊杞が凄く真面目な顔で父上を睨んでいる。
それを受けて、父上は「何故私がっ!?」とでも言いたそうに、それでも何も言えずただ小さくなっている。
「殿、今言っていただかないと、女御様に至ってはこの先永遠に自覚が顕れる事は無いかもしれないのですよ。」
柊杞が何を言いたいのかは解らないが、これはアタシを貶しているのだろうな………きっと。
もう一度父上に向き直り、「早くおっしゃって下さい」と無言で訴える。
それにしても、覚とはいったい何の事なのだろうか。
「殿」
もう一度、柊杞から呼ばれ観念したのか、漸く顔を上げる。
「女御様………おめでとうございます。……ご懐妊にございます。」
……
…………
………………
────…………
「…か、かいにん?」
父上から聞いた言葉に、私はただ瞼を瞬く事しか出来ない。
「晴明っそれは確かか?」
身を乗り出す貴雄様に父上は、重々しく頷く。
「はい、確かでございます。」
父上の言葉に貴雄様は瞳を輝かせ、二人の目も気にせず強くアタシを抱き締められる。
「まだ先の事だと思っていたが……女御っ」
ほうけていたアタシは、貴雄様の言葉で漸く、我を取り戻した。
そうだ、貴雄様の言うとおり早すぎるのだ。
「本当に確かなのですか?ワタクシが入内して、まだ一月ですよ」