平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
貴雄様がお帰りになり、柊杞も私がもう一度横になったのを見届けてから、少し離れた場所に控えた様だ。
それを見計らって、朱雀、貴人が姿を現した。
「姫…」
「聖凪様…」
二人とも暗い面持ちで、申し訳なさそうに、悔しそうに沈んでいる。
きっと、自分たちが居ながら呪咀を防げなかった事を気にしているのだろう。
十二天将の中でも特に心優しい二人だ。私のために自分を責めないでほしい、当事者である私でも気付けなかったのだ。
二人が自分を責める必要はないのだ。
「朱雀、貴人ごめんなさい、貴女達が気にする事はないのよ。呪咀をかけられた私でさえ気付かなかったのだもの」
二人にこれ以上思い詰めてほしくなくて、安心させる様に言ったのだが、二人の気は納まらない様だ。
「ですが我等は人に非ず……式神と言う、十二天将と言う、神にも近き者にございますのに…っ」
「姫、姫の御身を護る事が出来ず…申し訳ございませんっ……これより先は、悪しき物から姫、お腹の御子も我が力の限り御護りいたします」
朱雀は大きな瞳にたっぷりと涙を溜めて、貴人は何時もの優しげな風貌からは予想も出来ない険しく真剣な顔で言いつのる。
…私は本当に、周りに助けられて生きているのだな。改めて周りの優しさに気付かされる。
だから、私はこの優しい者のためにも強くならなければいけないのだ。
周りの者を護るためでもあるが、今は周りの者に心配をかけなくても大丈夫な様に……が精一杯。
「……ありがとう、でも護って貰うばかりでは対等ではないわ。……と言うか私の性に合わないわ」
そう言って笑みを浮かべると、二人も硬いながらも漸く微笑んでくれた。
それと、と貴人が続ける。
「皆も来たがっていましたが、多少五月蝿い者も、口が悪い者も気が短い者もいますので、また落ち着いてから来るのではないかと…」
少し苦笑いで話す貴人に、私も十二天将達の顔を思い浮べて、吹き出してしまった。
どうやら貴人は意外と、はっきりものを言う様だ。