平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
暫くの間、何も口にせずに眠り続けていたためか体力も霊力も極限まで削がれていたため、数日間は御帳台から起き上がる事が出来なかった。
何も口にしていなかったので、食べ物を前にしてもあまり多くは食べれずなかなか回復しない私を柊杞は、涙を堪えて付きっきりで看病してくれた。
そして漸く昼の暖かい時刻だけは起きれる様になった頃、貴雄様に右大臣の一の姫が入内される事が噂される様になった。
また他にも、新春の忙しい時期が終わり、年頃の姫を持つ殿上人達がこぞって入内を望んでいるらしい。
職務の合間を縫って会いに来てくださる貴雄様も、私に余計な心配をかけないためか、入内の事は一切話されない。
「お腹の子の為にも、早く良くなってくださいね」
と労りの言葉を優しい目をしてかけて下さるのだった。
私が懐妊していると言う事実は、秘されたままで私の傍近くの女房と薬師しか知らない事。
呪咀の方も、父上が根源を見つけ出されて、心配は無いだろうという事になった。
ただ、今後もまた起きるだろうと予測されて桐壺には父上と朱雀の強力な決解が築かれた。
そのお陰もあり、何も起こる事もなく睦月は終わり多少は寒さもやわらかくなる如月。
そこで右大臣の一の姫の入内が如月の半ばである事が取り決められた。
そしてその夜、私は一月以上ぶりに貴雄様のお召しを受け梅壺を訪れた。
「女御…身体は大丈夫ですか?さぁ、早く此方の火鉢に」
梅壺に入るなり、貴雄様は私の手を取り母屋の奥の温かい所まで素早く移動する。
「異変などはありませんか?こんなに細くなられて……性のつく物を食べなければいけませんよ」
貴雄様の世話の焼き方に私は思わず、ふっと吹き出してしまった。