平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



忍に連れられ外の冷たい風にあたると、それまで込み上げてきた物が楽になった。



その内に何時頼んだのか、女房が白湯を持ってきた。よくもまぁ、新参者であるはずの忍の言うことを聞くものだと、変なところで感心してしまう。



「……よく私の状態が分かったわね?」



見るからにもがさつそうな忍が、私の状態を理解し手際よく後処理をしたのは、仕事柄のせいなのだろうか。



「貴女、どこまで私の女と認めていないの?」



流石に睨む忍に「あはは」と苦笑いで返す。



「貴女のところの女房を読んだから……もうそろそろ来るんじゃないかしら?」



ついっと忍が桐壺へと続く廊に目を向けると、ちょうど柊杞が険しい表情で角に現れた。



「……良かったわね?右大臣の一の姫が入内するまえに、はっきりとした症状が出て。」



「?」



怪訝な目をする私に、忍はわざとらしく盛大なため息をつく。



「はっきりとした症状が出たのだから、もう隠しようがないじゃない。きっと明日にでも公表されるわよ。」



……それと右大臣の一の姫の入内がどう関係があるのだろうか。



更に首を傾げる私を忍は蔑む様な目で見つめる。



「貴女、思ったよりも鈍い頭をしてるのね。」



嘲笑する様に言い切った忍を睨み返すと、忍はもう一度ため息をついた。



「貴女の使命は東宮の……帝の子を宿す事でしょう。」



……ああ、これは私の使命だった。



でも私は、貴雄様の子が私の中にあるという事がただただ嬉しかったのだ。



忘れてはいなかった。……だが使命とは思いたくなかっただけ。



「……貴女もまだまだ幼いのね」



蔑んでくれたお返しに一言漏らし、私の元に到着した心配顔の柊杞たちと桐壺へと足を進めた。



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