平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
翌日にも、桐壺の女御の懐妊は公表され、いろんな意味で内裏を浮き足立たせた。
話を聞いた麗景殿の女御様からは、直ぐにお祝いの文と煌びやかな品が届いた。
お祖父様は、朝のお勤めが終わり大変ご機嫌な様子で桐壺にお越しになり「お身体に気を付けて、元気な御子を産んでくださいね」と始終にこにことして居られた。
きっと、沢山の公達から祝いの言葉をかけられ気分が良くなっていたのだろう。
やはり孫の私としてはお祖父様の嬉しそうな様子は、嬉しいものなのだ。
中には、「あまりにも早すぎる」「余所の男の子供ではないのか」などといった憶測も飛びかっているようだが、皆がめでたいと思ってくれている事が伝わってきたから耐えられた。
貴雄様も以前よりも頻繁に会いに来て下さるようになった。
ただしかし、私が懐妊した事を知り、それを快く思わなかった右大臣は如月の中旬としていた一の姫の入内を無理に切り上げて、直ぐに入内と言う事になった。
これには、右大臣の政敵である左大臣が猛反発をしたそうだが、帝と親しい右大臣が有利に働いたとか。
この事に関して、お祖父様は大層気を揉むのではないかと思われたが、意外にも落ち着いたもので、ずっしりと構えていた。
聞けば、年頃の姫君をお持ちではない左大臣がもともと従兄弟であったお祖父様を押しているらしい。
だが私にはそんな事など、少しも気にもならずお腹の中の子への想いがどんどん大きくなるのだった。
ただ、周りの女房たちが明日と迫った右大臣の一の姫の入内に、そわそわとしているのだった。
確かに入内となれば、三日は続けて御召しになる事にはなる。今まで私一人だった方がどちらかと言えば稀少だったのだ。
右大臣の一の姫がどの様な方かは知らず、貴雄様のお気持ちがどうなるのかも解らない。
ただ、貴雄様がこのお腹の子を蔑ろにする様な事は絶対に無い。
それだけでも私は心をしっかりと持てたのだ。