平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
外からは見えない様に巧妙に配置された几帳のそばで、如月にしては暖かい陽射しを浴びながらうとうととしていた物を起こされたのだから、少々機嫌が悪いのは仕方がないだろう。
ただ、起こされたというのは語弊があったかもしれない。
女房達は身重の私には極力、大人しくしていて欲しいと思っているのか、静かに控えているだけだ。
また、暇を持て余す様な私を十二天将が嫌がらせの様に起こす事もしない。
起こされたと言うなら、この私の力のせいという事になるだろう。
不意に顔を上げた私の側に白虎と太裳が姿を顕す。
「どうかしたのか?聖凪」
辺りを見回すために、落ち着きなく首を巡らす白虎の腕を捕える。
「…」
八つ当たりになってしまうが、せっかくのいい気分を邪魔された事を白虎に無言でぶつける。
「…なんだよ、その目はぁっ」
明らかに気分を害した様な白虎が声を荒げる。
…が、それを見事黙殺し太裳が私の前に腰を落ち着ける。
「また夢でも見たの?」
無表情のまま問うてくる太裳に、目を移し小さく首を横に振る。
夢ではないのだ。
「悪寒が走る……とでも言うのかしら。今日の天気には似合わない物を感じたの」
若干西に傾きはじめた陽射しに目を遣りながらため息を着く。
父上と十二天将の結解が施されてある桐壺では、何も起こらない。だが何らかの感覚が身体に走ったのだ。
実質的に私に向けられた物ではないにしろ、何かが起こっているのだろう。
「何か起こるかもしれない。少し気を張らないといけないわね」
苦笑いを浮かべる私に、太裳が冷たい笑みを浮かべる。
「本当に忙しい力よね」