平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「げ、玄武っ」
いきなり現れた玄武に、私は思わず仰け反ってしまう。
「あれは、明らかに何か隠している顔ね」
玄武はわざとらしく眉間に皺を寄せ、顎に手を当てて考える仕草をする。
「……………………藤壺の姫君がそこまで美しかったのかしら」
しばらくの間の後、いやに真剣な声音で呟く玄武に、完璧なまでの笑みをもって返す。
もはや怖い気もする私の笑みをものともせず、玄武はなおも続ける。
「…………………それとも貴女に愛想を尽かしてしまったのか。」
「どちらかしらね?」と玄武は楽しそうに笑う。
玄武が言うように、貴雄様が他の方の方を向いてしまうかもしれない、という不安がないわけではない。
でも、それは本当にどうしようもない事で………
だが、そうやって思い詰めてしまう事はもっと良くない。
そんな負の気持ちを身に宿すのは、止めようと考えたのだ。
私は貴雄様を信じる事を、やれば良いのだから。
それに、貴雄様はこれからも何人もの方を抱く事になるだろう。
そのたびに、悩んでいては身体も気力も持たないではないか。
大丈夫。
私は弱くはないのだから。
玄武を責めるように見つめながら、そんな事を考えていると、珍しく勾陣が姿を現した。
「玄武、そのような事を言っては姫に悪いであろうが」
と、瞬き一つの合間に何処からだしたのか金色の紐のような物で玄武を縛り上げてしまう。
「──────え?」
「姫、すまんが玄武は少し借りる事にするよ」
突然の事に間抜けな声を出す私に、勾陣はからりと詫びれる様に笑うと玄武を連れて姿を消してしまった。
「…」