平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
任務を遂行すべく姿を消した青龍と入れ違いのようにして、白虎がふわふわと浮遊しながら現れた。
呑気な白虎など、黙殺すればよいのだが、白虎が腕の中に抱えているものを見て思わず目を剥く。
「白虎!!いったいそれは何!?」
「犬」
「そういう事を聞いてなどいないわっ、貴方それは悪鬼に憑かれているのよっ」
驚いて立ち上がる私に、白虎は「心外な」と言わんばかりに頬を膨らませる。
「だから持って来たんだろっ!!」
いきなり宙に現れた理性を失った犬に、女房たちは顔を青くして後退る。
「白虎!!すぐにそれを降ろしなさいっ」
─青龍、白虎、玄武、朱雀、四神召喚─
柏手を素早く打ち、右手の印で床に触れる。
床に下ろされた犬の周りを光の線が囲み、犬を縫い止める。
─消意消見、現前刻流─
柏手の音が辺りに響き渡っていく。
辺りが静けさを取り戻すと、女房たちの怪訝そうなため息が彼方此方で零れる。
「………女御様?」
恐る恐ると言った体で、少将の君が声をかける。
「今、いったい何が起こったのでしょう?」
それまで、目を見開いていた柊杞も少将の君の声で我を取り戻し近寄って来る。
「女御様、ご無理は…」
複雑な表情で私を、ちらりと盗み見るようにする。