平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「ごめんなさい……でも絶対に無理はしないわ、約束します。だから暫く一人にして欲しいの」
私の言葉に目を見開き、口を開けた柊杞を遮り先を続ける。
「大丈夫、自分で何とかしようなど考えていないわ。陰陽寮の者を呼んで?それまでの間だけだから」
「ですが」と言い募る少将の君を抑え、柊杞が無言で見返してくる。
それに黙って頷く私に、少し困った顔をしながらも柊杞は折れてくれる。
「絶対に無理はしてはなりませんよ」
そう言うと柊杞は、控えている女房たちを連れて南の棟を出ていった。
棟から誰も居なくなったのを確認して、白虎へと向き直る。
「──それは……何処で見つけたの?」
白虎が抱えてきた犬からは、血の臭いがする。悪鬼に憑かれてもう随分になるのだろう。
「藤壺の下に潜んでいたんだ」
「まさか、藤壺で何かあったのでは?」
犬に襲われたのなら、先程の悲鳴にも合点がいく。
「ああ、それなら問題はねぇよ。俺が抱えた犬に女房の一人が気付いたみたいで、気を失っただけだ」
けらけらと笑う白虎には、もう呆れるしかない。
私が怒鳴るのと、今し方帰って来た青龍の手が出るのは同時だった。
「白虎っ!!」
なんでこの子はこんなに間が抜けているのだろうか?十二天将…それも四神である事を本気で疑ってしまう。
青龍からの素晴らしい一発を食らった白虎は、涙目で精一杯の抗議をする。
「なんだよ、二人してぇ!!逃がすよりましだろっ!?」
「そう言う問題ではないだろう!!どうして細心の注意を払わなかったんだ」
神速で駆ければ只人の目に映る事はないだろっ!!と続ける青龍に、だってと涙声で睨み返す白虎にため息が出る。
「青龍、もういいわ。後で勾陣にでもお仕置きをしてもらいましょう。どうも勾陣はやり手のようだわ」
私の発言に、白虎があからさまに嫌な顔をしたのは言うまでもない。