平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
普段は何も考えてなさそうな青龍だが、十二天将だけあってそこはしっかりとしている。
やはりここは、玄武が見た目通り人間の子供と変わらないという事なのだろうか。
「それより……どうして内裏に悪鬼が……」
内裏は陰陽寮の陰陽師の結解で護られているはず。悪鬼に憑かれた犬などでは、容易に入る事は出来ない。
「そんなもん、考えるまでもない。何者かが、故意に入れたんだろ」
腕を組む青龍の言う事はもっともだ。何せ、この犬が見つかったのは先日入内したばかりの、藤壺の女御のところだから。
「でも、いったい誰が?」
流石に占い道具などは、此処へ持ってくる事は適わなかった。
それに、標的は右大臣の姫。怨み、妬みの類は溢れているだろう。
「決まってる。左大臣だろ」
「っ」
青龍の答えに、返そうと口を開くが少し幼い声に先を越される。
「それはないでしょう」
声のした方を振り返ると、御簾の向こうに柊杞と二人の役人が立っていた。
すかさず、声をかけた役人に柊杞が叱責する。
「吉平様っ女御様より先にお声をかけるなど、その様な事はあってはなりません」
叱責すると言っても、陰陽寮の役人に対するにしては、やけに優しい。
それも、まるで幼い子に諭す様な言い方だ。
その場に座り、頭を下げる二人に思わず顔がほころぶ。
「お久しぶりです、姉上」
「!!ですからっ、吉昌様っ」
再び声を上げる柊杞をものともせず、にっこりと笑う二人を、青龍と玄武が物珍しそうに眺める。
「ええ、お久しぶり」
「っ女御様!!」