平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
御簾の内へと促す私に、柊杞はますます眉を吊り上げる。
「女御様っそれはなりません。お二方とも、既に元服なさっているのですよ!!」
御簾の前を陣取り、二人を通さないようにする柊杞を見て、吉平と吉昌がにやりと目を合わせる。
そして次の瞬間二人同時に柊杞の両側を滑りぬけ、豪快に御簾を潜り抜けた。
その間ものの一呼吸。
「っ」
何も手を出せなかった柊杞は、呆れ顔で私の側まで戻ってくる。
「……今年新たに元服した晴明の子供たちは落ち着いており大層聡明らしい──とのお噂は伺っておりましたのに、実際はまだ榊様と桂様のままなのですね」
さあ、早くお戻り下さいと言う風な目をする柊杞を気にするでもなく、吉平がからりと笑う。
「それは違うよ中将、公私を上手く使い分けているんだよ」
まあっと再び目を吊り上げる柊杞に、私も笑う。
「この二人は父上の子だもの、並大抵の人では適わないわ」
「それよりも……二人と直に会っているのを知られるのは、賢明ではないわ。」
少し外を見ていてくれる?と言う私に、もう私は何も知りませんと言った風の柊杞は、一つ頭を下げ母屋近くの渡殿の見える位置まで下がって行った。
改めて二人を向き直り、目を細める。
「遅れてごめんなさい、元服おめでとう」
そう言う私に、二人は威張る様に胸を反らす。
二人ともなかなか、烏帽子姿が様になってきている。
「それにしても、何故入寮して間もない二人が此処へ?」
二人とも、勿論おいそれ内裏に入る事は出来ない身分のはずだ。
首を傾げる私に、ああと苦々しげに吉昌が口を開く。