平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「寮の上の方々が、桐壺の女御は大層な腕の持ち主らしい…行って役に立てませんでしたでは顔が立たん、と憂いておいでで」
「兄上ではどうか?と言う話にもなったそうですが、兄上は寮の役人ではないのでそれが適わず、私共に白羽の矢が立ったという訳です」
そんな事言われたら、私達も姉上には遠く及ばないんですけどね、と顔を見合わせて笑う二人にため息が出る。
それに桂……吉昌の方に関しては、父上は何も言わないがきっと自分の後継にと考えている。
力がないなどはない。まだまだ経験が足らないだけで、後々は陰陽寮の重鎮となるだろう。
吉平の方も同じくだ。
しかし………
「それならどうして、父上がいらっしゃらなかったの?」
幼い二人を寄越すより、陰陽寮としても断然体面がいいはずだ。
なんせ、父上は陰陽頭なのだから。
私の表情からそれを読み取ったのか、吉平が軽く目を見開く。
「姉上はご存知ないのですか?」
「父上はこの度、春の次目で左京権大夫にご昇進なさいました」
吉昌の発言に、今度は私が目を見開く番だった。
大夫と言えば従四位下になるはず。陰陽師としては考えられない程、高位だ。
昇進の切っ掛けは、やはり私なのであろうか。
頭の中で思案を巡らす私に、白虎が半眼で睨む。
「今は、そんな事どうでもいいんじゃねーの?」
白虎は、先程私が怒った事を根にでも持っているのだろうか。さすれば、本当に子供だ。
「そうね………吉昌、左大臣が違うと言うのは?」
「それは、左大臣程の方になれば、当然力を持った陰陽師に依頼するでしょうから。しかし、父上にはそういった物は届いて居ないようです」
「それに、父上は内大臣の継子ですから縁はとても強固な物になりますし」
理由を述べる吉昌に、補足する吉平もやはりまだまだ子供で、純粋だ。
「父上が、わざわざ仕事内容を貴方達に話されるはずないでしょう」
それに、汚い仕事であればある程、表には出さないだろう。