平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
すると吉平と吉昌は、気まずそうに目を合わせ私へと向き直った。
「姉上、父上には黙っていてくださいね。」
「実は私達は、父上の文箱の在処を知っているのです」
申し訳なさそうに、私の様子をちらちらと伺う二人は、つまり父上の文を隠れて読んでいるのだ、と言いたいようだ。
まだ一般的な貴族の文のやり取りを盗み見たのなら、駄目でしょうの一言で済むだろうが……
────だが、父上は違う。
父上の文は、貴族の裏社会のあれこれが恋文のような物だ。
あれは、父上以外の者が見ていい文ではない。
「吉平、吉昌……好奇心が大勢なのは構いません。しかし、父上の迷惑になる事だけは何があっても許されません。」
もう二人とも元服したのだ。いい事と駄目な事は、自分で解っていなければ後々自分の首を絞める事になる。
陰陽師とはそういう世界だ。
静かだが、厳しい口調に二人とも肩を小さくして聞いている。
解れば良いのだ。
「今回の事は聞かなかった事にします。もう二度とやってはいけませんよ」
はい、と小さく頷く二人の頭を一つ撫で、切り換える。
「さて、左大臣ではないとすると他は絞るのは骨が折れそうね」
私は、人の頭の中を視る事が得意ではない。こんな時こそ兄上の力を借りたい。
ちらりと結界に封じている悪鬼を見て、ため息をつく。
この二人にも、まだ難しいはず。
陰陽寮の役人に視て貰いたかったのだが、悪鬼ではなく私に気後れしているのなら、それは諦めた方がいいだろう。
しかしだからと言って、此れを何時までも置いておく訳にはいかない。
私は既に多少の瘴気になら耐性は出来ているが、この子は違う。
お腹に手を当ててみるが、まだ少しの変化も見られないが確実に成長しているはず。
この子を護るためにも、今私が無茶をしたり、妖に近い生活をしない方がいいのだ。