平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



「まあ、確かに如月から今まで何も起こらなかったけれど………どうしても気になってしまうのよね」



あの悪鬼の一件以来、確かに藤壺は平穏無事。なんの問題もなく過ごせている。



貴雄様も、まだ若い藤壺の女御をとても気に掛けていらっしゃる。



───気に掛けていらっしゃるのだが、気の掛け方が自分の女に対する物とは少し違うのだ。



ただ、一人の人として何かを感じ、何かに恐れ………それらを全て含めて心配している様に思える。



私は藤壺の女御には会ったことがないので、何とも言えないのだが。



貴雄様にそれとなく聞いても、何でもないですよ、と笑ってはぐらかされてしまう。



貴雄様に言う気が無いのなら、もう私に聞くすべは無いのだ。



ため息をつく私を心配してか、貴人が気遣わしげに私の頬に触れる。



「大丈夫よ、ただ考え事をしていただけ」



苦笑を持って返す私に、貴人は思案顔になる。



「姫、このようにお身体がお辛いのでしたら、少し早いですが退出してはいかがですか?」



「数えると神無月の始め頃のご出産になりましょうし、その方が一条の北の方様もご安心なされるのでは?」



体調が優れないとなると、東宮や他の方も納得せざるをえませんし大丈夫です、と言う貴人に私は考え込んでしまう。



確かにここは、よからぬ噂が立ったり、たくさんの女御、更衣方が居られて心の底から休まる事はない。



それだったら、確かに貴人が言う様に少し早いが退出した方がいいかもしれない。



しかし、気に掛かる事があるため踏ん切りがつかないのだ。



そして貴人もそれが分かっているため、このような事を言いだしたのだ。



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