平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
翌日にも、お祖父様には昨日の事が伝わっており、さっそく父上に良き日を占じさせたらしく、急な事だが明日と言う事になった。
「もう、殿も大殿も女御様も本当に急なのですから」
と、少し怒っていたが彼女もやはり私を下がらせる事には賛成の様だ。
昨年末から慌ただしく、なかなか会う事が出来なかった、私の乳兄妹である正伴にも会えるという事もあるのだろうが。
慌ただし気に動く柊杞をくすくすと笑う私を、一瞥する柊杞はちらりと鬼の形相に変貌しようとした。
慌てて顔を引き締める私を苦笑し、早足で母屋を出て行った。
ふぅと息を着く私の側に女房が寄り、一礼する。
「今宵は梅壺へ御召しがございます」
それだけ告げ、慌ただしく動き回る女房達の邪魔にならないようにと、さっと桐壺を出て行った。
そうだ……
「…しばらく………会えないのね」
物憂げに脇足に寄りかかる私の頬を撫でるように、ひんやりとした風が吹いた。
「太陰」
「大丈夫です、東宮は姫の事を想ってらっしゃいますよ」
にこりと優しい微笑みを浮かべる太陰に、ええと頷きかえす。
「そうね、優しい御方だもの」
目元を和らげる私の頭を撫でるように、もう一度風が吹く。
「予感がするわ…今宵はきっと夕日が隠れ終わらないうちに迎えが来る」
そう呟く私を、太陰は本当に優しい顔で見つめていた。