平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
予感通り日暮れ前には、もう貴雄様は私の目の前に居た。
「お勤めは…?」
「早々に切り上げてきました。」
控え目に切り出した私に、間髪入れずに答える貴雄様。
そして、膝がつくほどにじり寄って来、私の頬を両手で包み込む。
「明日など余りにも急だ…」
悲しそうに瞼を閉じ、こつんと私の額に自分のそれをつける貴雄様の手に、自分のものを重ねる。
「…直ぐに戻って参ります」
そう言う私に貴雄は瞼を開き、少しの間私と目を合わせた後に顔を離し口を開く。
「直ぐにと言っても、産後の経過が思わしくなかったのなら………身体を大事にしなくてはいけませんよ」
私の元に戻って来るために、と付け加えられた言葉に顔が赤くなったのが分かる。
「もうすぐ、父宮になられるのに貴方様も幼子のようなのですね」
照れ隠しにくすくすと笑う私に、貴雄様は余裕の笑みを浮かべる。
「照れ隠しですか?」
その貴雄様の言葉に、私は目に見えて紅く染まる。
恥ずかしくなり顔を下げる私の顎に、貴雄様の指がかかる。
「いけませんよ、顔を下げては」
「…もっとよく貴女の顔を見せて。すぐに頭に思い描けるように」
貴雄様の続ける言葉に、ますます真っ赤になる私の顔を容赦なく上向ける。
まっすぐに見つめられ、恥ずかしくて目を合わす事が出来ない。
瞳をきょろきょろと彷徨わせる私に、貴雄様の声がかかる。
「女御」