平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
その様に真剣な声音で呼ばれては、私に貴雄様の目を見る以外の答えは残されていない。
遠慮がちにゆっくりと、上目遣いで貴雄様へと視線を投げる。
恥ずかしさを隠しきれない私を、優しく微笑んだ後貴雄様は強引に…だが優しく私を自分の胸に包み込む。
「女御、私が一番愛しく想うのは貴女です。それは何があろうと変わりません、だから何も心配する事はありませんよ」
そう言って抱き締める腕に力を入れる貴雄様に、私は可愛気ない事を言う。
「……言葉には魂が宿ります。その様なお言葉を言ってはなりません。私は私で貴雄様を縛りたくはないのです」
今後、貴雄様が素晴らしい方と出会う事もあるだろう。
先の事は分からない。そんな時、私のために貴雄様が縛られる事はないのだ。
「何故その様な事を言うのです?…だが分かりました、貴女がそう言うのなら言い換えましょう」
「私が今、心から想う人は貴女だけですよ」
そう言って少し体を離し、私と顔を合わせて優しい微笑みを浮かべられる。
その優しい熱っぽい瞳に、私は今度こそ「はい」と素直に頷くのだった。
そうやって笑みを浮かべる私に、貴雄様は頷き顔を寄せてくる。
私もそれに応える様に静かに瞼を閉じる。
貴雄様の吐息が唇にかかり、唇が触れようと言う時、女の甲高い悲鳴が内裏に響き渡った。
「っあ、ぁぁああああ"っ」
瞼を開き、目の前にある貴雄様と目を合わせる。
「今のは…」
「分からないが……藤壺の方…?」
今まで静かだった辺りが、ざわざわと騒がしくなってくる。
そして、霊力の無いものは分からないだろうが、ぞわぞわと何かがはい上がってくる気配がする。
「っ」
口を開こうとした私よりも先に、天空の織り成したであろう結界が梅壺を包む。
「聖凪梅壺の女に異変があった様だ」
天空の言葉に立ち上がりかける私の腕を、貴雄様が捕える。
「いけない、貴女は行ってはいけません!!」