平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
朱雀に支えられたまま、暫く息を整える。
「ごめんなさい、もう大丈夫」
そう言って崩れた身を起こそうとするが、朱雀は私の肩を離さない。
「姫様……これ以上はお身体が」
悔しそうに唇を噛む朱雀の手に自分の物を重ねる。
「ごめんなさい、でももう藤壺の女御を視てしまったの。ここで終わるなど出来ないわ」
「多少の無理ならきっとこの子も堪えてくれるわ……だって私の子だもの」
少し速い呼吸で笑う私を、朱雀は悲しげに見つめ、こくりと頷いた。
………さて、この状況を起こさせたのは、右大臣の御子息の北の方の懐妊………
───と、なると
「白虎、騰蛇、今すぐ四条に向かって。確かな場所は判らないけれど、近づいたら判るはずよ」
「……容赦はいらないわ」
姿は見せず、二人の気配だけが去って行った。
この二つの場所で事を起こす周到性と、私を気だけで追い出したまがまがしい力。
「悔しいわね、以前と同じ者が糸を引いているわ」
以前は表立って動いた術者を捕えたものの、黒幕は現れはしなかった。
兄上は九尾と言ったが、どうかは判断しかねる。
ただ、相当の力を持っている事は確か。
藤壺の女御から元凶まで、力を辿りたいが今の私は悪鬼を取り除けるかも怪しい。
先程は朱雀に大丈夫と言ったが、実際はこうして座っているのでさえ息苦しい。額には脂汗も滲んでいる。
暑さで弱っていたせいもあるのかもしれない…
「…祓わなければ」
早く加持祈祷を行わなければ、私も藤壺の女御も参ってしまう。
加持祈祷は原因が何かを知っていなければ、行う意味など無い。
藤壺の女御を視た私が行わなければならないのだ。