平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
私のぽつりとした呟きに、朱雀と天空は静かに目を伏せる。
貴族の姫に生まれたからには、これはどうしようもない事なのだ。
藤壺の女御の顔から手を離し、そのまま手入れの行き届いた髪を一撫でする。
微かに瞼を震わせる藤壺の女御から目を離し、天空に命じる。
「藤壺の女御を御張台へ……朱雀貴女も一緒に。お世話をしてあげて。」
藤壺の女房たちは勿論、皆気を失っている。
被害が無いようにと、天空が母屋の端へと運んだようだ。
「太陰、女房たちの様子を視てきてくれる?」
天空が藤壺の女御を抱え、またそれに従う朱雀を見送り、深く息を吐く。
息を吐くとどっと疲れが押し寄せてくる。どうやら息と一緒に気力まで抜けてしまったようだ。
それまで何とか堪えていた身体から力が抜け、身体が後ろへと傾く。
「っ」
衝撃に備え、身を固くするがその衝撃は何時まで経ってもやってこない。
「無理はしないで………と言っても、無力な私からは情けなくて何も言えませんね」
重い瞼を開けると、腑甲斐なさそうに悲しい目をして笑う。
「貴女を藤壺の女御を守りたいと思ったのに、結局は貴女に頼ってしまった」
「無力な私を許してください」
そう言って私から顔を背けるように、私を胸の中へと優しく抱く。
「身体は大丈夫ですか?貴女もお腹の子も」
「…」
口を開くが気だるく上手く声が出ない。
貴雄様はこくりとゆっくり頷く私から身体を離し、先程私が藤壺の女御にしていたように私の頬に触れる。