平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
だが、どうして桐壺の女御様がこの藤壺に……
考えてはっとなる。
私も物の考えられない歳ではない、桐壺の女御様は彼の大陰陽師の女なのだ。
私の身体に在ったものが軽くなっている。
桐壺の女御様が助けて下さったのだ。
それで、気を失われ……
「東宮様っ」
藤壺の女御は身体をお越し、駆ける様に東宮の下へと進む。
「桐壺の女御様はお子が……私は大変な事を…」
目を涙をいっぱいに浮かべ、心細そうに震えている藤壺の女御に貴雄は軽く驚いた。
この少女の感情が現れる様を初めて見た気がする。
桐壺の女御のお陰だ。
そんな藤壺の女御を優しく見やり、安心させる様に微笑む。
自分が不安なところを見せれば、この少女はきっと自分を責めてしまう。
「大丈夫です。この方は強い人です。お腹の子もきっと…」
「失礼つかまつります!!」
男の太い声が藤壺に響く。
反射的に藤壺の女御に腕を回し、藤壺と気を失った桐壺二人の女御を胸の前で抱き、自分の身体で隠す。
「藤壺で変事有りと、参上いたした次第に……」
駆け付けた衛士と陰陽寮の役人は母屋の中心近くに落ち着けた、高貴な御人の背とその影から見える二人分の長い髪と女物の衣を認め固まる。
「ご苦労であった。だが変事は片付いた……見ての通りだ、一度表に出ていてくれ」
衛士たちはその声に、慌てて下がる。それを確認して端で傍観していた香久山を呼び寄せる。
「取り敢えず二人とも梅壺へ、着いてきてくれるか?」
ため息をついたのを了解と受け取り、桐壺の女御を抱え立ち上がり三人の背は藤壺を後にした。