平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
問題があったため、遅れはしたが、半刻もかからずに二条のお邸に着いた。
お祖父様は今にも飛び跳ねんばかりに私を出迎えてくださり、女房共々西の対に入った。
西の対に入るとあまり長くは過ごさなかったが、それでも帰ってきたと言う実感が湧く。
ふぅ、と腰を落ち着けていると、遠くの方からぱたぱたとした足音が聞こえてくる。
柊杞もそれに気付いたらしく、顔を綻ばせなが御簾へと近づく。
だんだんと大きくなってきた足音は、速度を落とす事なく御簾の内へと入ろうとする。
それを事前に察知した柊杞が、少しばかり御簾を上げるとその隙間からさっと二つの小さな影が現れる。
「あねうえ」
二人はにこにこと私の側まで寄ってくると、私の膝に手を置くようにして身を乗り出す。
「翡翠も卓巳君もお久しぶりですね」
私が微笑むと、二人は更にぱあっと輝かせる。
この二人は歳が近い事もあり、親しく付き合っているのだ。
特に私が入内してからは、このお邸で過ごす事の多い卓巳君を翡翠がよく訪ねているらしい。
「あにうえたちが、あねうえにおあいになったと、じまんするのです」
「お二人には、宿下がりされる時にお会いになれます、と言っていたのですが、それでも足りぬ、とずっとお待ちになっていたのですよ」
そう言い頬を膨らます二人を、遅れてやってきた卓巳君の乳母が笑っている。
「あねうえ、さわってもよろしいですか」
手を伸ばす二人に頷いていると、一人の女房が首をかしげながら入ってきた。
そして、その後ろには先程助けた少女が俯きながら付いている。
「そうそう、珍しい菓子をお見舞いで貰ったの。…あの中将の君に聞いてご覧なさい?」
そう言って柊杞の方を指すと、二人は嬉しそうに返事をして立ち上がる。
内裏とは違い、女房はそう多くない。幼い二人を預けると、私の側からも減るだろう。
その二人に一礼をし、女房が私の前に膝を下ろした。