平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「お疲れのところ申し訳ごさまいません」
顔を上げた女房はやはり訝し気な表情を崩しておらず、自分の後ろに控えている少女へと少し体をずらす。
「先程、私が歩いておりましたら、何処からともなくこの娘と女御様の式と名乗る者が現われまして…」
どうしましょう、と女房は困った様に首を傾げる。
「ええ、存じているわ。此処まで連れて来てくれてありがとう」
女房にそれだけ言い、後ろに座る少女に笑いかける。
少女は、肩を強ばらせ焦って俯いてしまう。
見たところ、まだ裳着は済ませてない様だ。この奥ゆかしさは、やはりそれなりの姫と言う事なのだろうか?
「ごめんなさい、この姫君と少し話がしたいの……外して貰える?」
しかし、と言い募る女房を半ば拝み倒して、少女と二人になる。
「ごめんなさい、この様な身体ですから……此方へ寄ってくださいませんか?」
自分の目立ってきたお腹に手を置くと、少女ははっとした様子で立ち上がる。
少し距離のあった少女が、おずおずと私のすぐ側までやってきた。
「そんなに恐がらないで?少し貴女に聞きたい事があるの」
「…聞きたい事?」
極力優しい声音で話すと、少女は小さい呟きを漏らした。
「ええ、違ったり気分を害したならごめんなさい」
もう一度、女房たちが耳をたてて居ないか確認して、少女にだけ聞こえる様に声を出す。
「…貴女は人の子では無いわね?」