平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



「お疲れのところ申し訳ごさまいません」



顔を上げた女房はやはり訝し気な表情を崩しておらず、自分の後ろに控えている少女へと少し体をずらす。



「先程、私が歩いておりましたら、何処からともなくこの娘と女御様の式と名乗る者が現われまして…」



どうしましょう、と女房は困った様に首を傾げる。



「ええ、存じているわ。此処まで連れて来てくれてありがとう」



女房にそれだけ言い、後ろに座る少女に笑いかける。



少女は、肩を強ばらせ焦って俯いてしまう。



見たところ、まだ裳着は済ませてない様だ。この奥ゆかしさは、やはりそれなりの姫と言う事なのだろうか?



「ごめんなさい、この姫君と少し話がしたいの……外して貰える?」



しかし、と言い募る女房を半ば拝み倒して、少女と二人になる。



「ごめんなさい、この様な身体ですから……此方へ寄ってくださいませんか?」


自分の目立ってきたお腹に手を置くと、少女ははっとした様子で立ち上がる。



少し距離のあった少女が、おずおずと私のすぐ側までやってきた。



「そんなに恐がらないで?少し貴女に聞きたい事があるの」



「…聞きたい事?」



極力優しい声音で話すと、少女は小さい呟きを漏らした。



「ええ、違ったり気分を害したならごめんなさい」



もう一度、女房たちが耳をたてて居ないか確認して、少女にだけ聞こえる様に声を出す。



「…貴女は人の子では無いわね?」



< 182 / 241 >

この作品をシェア

pagetop