平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
少女の驚きで見開かれた目で、それが事実だと確信する。
「ごめんなさい、違うわね。私も似た様なものなのだけれど……人の子ではあるが、妖の血が交ざっている。」
また俯いてしまった少女は、消え入りそうな声でぽつりぽつりと話しだす。
「…私の母は巫女をしておりました……」
母はそれなりの貴族の一人女でしたから、巫女になる事は反対があったそうです。
しかし、神のお告げを受けた母は自分が巫女に成るべくして生を受けたと気付いたのです。
それから母は六年程、神に祈りを捧げて暮していました。
そんなある日、美しく清らかな母を見初めた鬼が現れました。
それが私の父です。
母は人です、それも神に使える身。それを鬼など魔に属する者に攫われ子をなされた事を凄く嫌悪しておりました。
それでも生まれた私は、何の罪も無いと慈しんでここまで育てて貰えました。
鬼である父も、母の子である私を、よく世話してくれました。
私はそんな父が嫌いではありませんでしたが、母はどんなに愛を向けられようとも、笑顔を向ける事は疎か口を利く事もしませんでした。
父はそんな母をどこまでも愛し、一族の鬼から私と母を守ってくれていました。
そして年月は流れ、私は七つになりました。
とうとう神の子ではなくなったのです。
それまで私を見ていた鬼達の目が、一層渇いたものに変わりました。
しかし、父が一族の中でも大きな力の持ち主だった為、それからも私と母に危害が及ぶ事はありませんでした。
しかし、私が七つになって間もない頃、父が命の危機にありました。