平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「そして、今宵で六年が終わるのです。母の御霊と共に里を抜け出し、此処まで来ました。」
「……母君は貴女を守り、昇天されたのですね……」
「はい……」
張り詰めていたものが切れてしまったのか、少女ははらはらと涙を零す。
「よく頑張りましたね」
少女の背に腕を回し、優しく叩くと少女は堰を切ったように泣きじゃくる。
それを見ていた女房たちがぎょっとし、腰を浮かせたが、首を振ってそれを止める。
遠くの方で、柊杞が大きくため息をついているのが見えた。
暫らくして、泣き疲れ眠っていた少女が目を覚ます。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけると、少女ははっとした様に体を離す。
「すみません」
恥ずかしそうに顔を赤らめる少女は、つきものが落ちた様にすっきりとしていた。
「貴女が望むのなら、母君の父……祖父君をお探ししましょうか?」
お祖父様や父上に伺えば、一人女が居なくなってしまった貴族など直ぐに見つかるだろう。
暫らく考えた少女は首を横に振る。
「いいえ、鬼の血を引く私を受け入れてくれる処などありません」
確かに世間の目は冷たい。
妖の子など、受け入れはしないだろう。
安倍の者以外は……
「……もし貴女が嫌でなければ、私の処に来ません?」
「…でも」
突然の申し出に、やはり少女は困っている。
「大丈夫。みんな理解ある者ばかりよ。それに、今聞いた事は誰にも言わないわ」