平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「……それに」
顔を上げた少女に笑ってみせる。
「先程も言いましたが、かくゆう私も妖の血を引いているのです。」
さらりと言う私に、少女は目を見開く。
「暫く此処に留まり、後の事をゆっくりと考えては如何ですか?若いのですから、何かをするのもそれからでも遅くはありませんよ」
戸惑っている少女をそのまま、離れた所に控えている女房に、少女の衣を用意するよう指示する。
女房と一緒に出ていく少女の身の上に思いを馳せる。
幼くして両親をなくし天涯孤独、鬼の子であると言う引け目。
両親とも健在の私には解らない事もあるが、人外であるという境遇は解ってあげられる。
それならば、彼女を護ってあげたい。一角の姫として暮らして欲しい。
それも、私が無理に決めれる事ではないのだけれど。彼女が望むのならば、両親の代わりとなってあげたい。
脇息にふうっと肘をつく私の元へ、卓巳君と翡翠が戻ってくる。
「きれいなかたですね」
「ええ本当に、数年後が愉しみ」
私に同意する様に、頷く翡翠と卓巳君が熱く語り合う中、卓巳君の乳母が哀しげな目をして少女の出て行った方を見ていたのが少し気になった。
まさか話が聞かれていた、という事はないだろうが。
「そうだ、あねうえ」
翡翠が急に思い出した様に大きな声を上げる。
「あす、ははうえときよがまいられます」
笑顔で話す翡翠の頭に手を乗せ、私も微笑む。
「まぁ、思い出してくれてありがとう」