平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



夜になり、宿直の女房以外寝静まった頃、御帳台の中で静かに起き上がる。



さっと隣に現れた貴人と玄武に、声もなく頷く。



いつもの私ならこんなに面倒な事はしないが、流石に今は子を宿している。



先日、長い時間瘴気の中に居てしまった。



まだ生まれてもいない、か弱いお腹の子には大層な負担だっただろう。



少しでも楽になるように、と禊をしようと話したのは、内裏から下がる車の中だった。



初めは、龍神が守護する桂川とも考えたが、身重の私には流れる川はきつそうだ。



そして、流れのない巨椋池へと決めたのだった。



巨椋池も桂川に劣らぬ神聖な場所。禊にはうってつけの場所だろう。



いつもの様に自分と瓜二つの式を御帳台に残し、こっそりと御簾の外に出る。



さらに現れた天空に抱えられ、いざ飛び立とうという時、廂の端で何者かの息使いが聞こえてきた。



いや、息使いと言うより、声を殺して泣いている様にも聞こえる。



気配を消して様子を窺うと、どうもあの少女の様だ。



そっとしておこうとも思ったが、どうも放っては置けない。



足音を立てない様に少女に近付き、そっと肩を叩く。



案の定驚いた少女の肩はびくっと大きく揺れたが、私だと気付き口を開こうとする。



「っ」



人差し指を立ててそれを制止し、少女の腕を引き立ち上がらせる。



訳が解らず涙に濡れた目をぱちぱちさせる少女に微笑んで見せ、側の玄武に一つ頷く。



玄武がやれやれといった体で少女の側に立つと、私ももう一度天空に抱えられる。



少女が十二天将に抱えられ、恐怖で身を堅くさせるのもつかの間。私が頷くと同時に、三つの影が西の対から飛び立った。



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