平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「朱雀は?」
翔る天空に問うと、言葉少なに帰ってくる。
「先に行って控えている、と」
巨椋池は四神の一人、朱雀が守護するといわれている地だ。
それならば、朱雀がいた方がより良いだろうと言う事で朱雀に力を解放してもらう事になった。
そして珍しく天空が自分から口を開く。
「何故あの娘を?」
前方を見据えたままの天空の顔を見ながら、私は軽く驚いた。
「そうね、気晴らしにでも…かしら………いいえ、違うわね」
少し先を行く少女に目を遣る。
「あの子が穢れているとは思わない、何しろ神の加護を受けていたのだから。……でもあの子自身が引け目と言うか、穢れていると考えていると思うの」
その説明に天空が、なるほどといった様なため息をつく。
「それなら、私について禊をしたら……と思ったの。母君の事もあるし」
結局は心の持ち様ね、と締めくくる私に「そうか」とだけ言い、天空は再び口を閉じた。
代わりに一歩後ろを駆けていた貴人が口を開く。
「あの少女は幸運でしたね」
少女を見ながら貴人が、優しく目を細める。
「姫が外にいらっしゃる時などそう多くはありませんから、凄い偶然です。」
「そうね、それも神の加護なのでしょうね」
神に護られた少女。
きっとこれからも悪い様にはならないだろう。きっとまた、路が開けると思う。
それ迄は私の側に置いておきたい、と言う気持ちがあるのだが、きっとそれも少女或いは神が示すのだろう。