平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



内裏を下がって日が経ち、すっかり二条の邸に落ち着いた。



同じ日に奇異な運命から訪れた少女………真子も此処での暮らしに慣れた様だ。



まだはっきりと「残る」とは言われてはいないが、禊から帰ったその日のうちに、「陰陽の術の教えを請いたい」と、良い返事が聞けた。



真子は十二天将を労する事なく視る事が出来き、霊力も鬼の血を引くだけあって高い。



身を護るためにも、陰陽の術は習っておいて悪い事はないだろう。



そして、真子という名前。



名を訊ねるなど、本来はとても失礼な事だろう。だが、誰も真子の事を知るものが居ない………追い込まれる事のないように、と聞いたのだった。



すると真子は快く名前を教えてくれたのだ。



貴族の姫の名を知るなど、聖以外の例はない。



柊杞にしても、幼い頃から呼びやすい様にしてあるのであって、決して本名ではない。



いくら人里離れた鬼の里で暮らして居たといっても、真子は母君から多くの事を学ばされていた様で躾の行き届いた子だ。



「女御様に呼んでいただくなど、恐悦至極にございます」と言いながらも嬉しそうに頬笑んでいた。



きっと真子自身も自分を誰かに知っていて欲しかったのだろう。



他の女房からは初めは怪訝な目で見られていたが、素直な子で教養があった事と、私が柊杞を説き伏せた事もあり、今は利宇古宇の姫と可愛がられている。



利宇古宇とは控え目だが色も白く可愛らしい所が、まるで利宇古宇の花の様だと柊杞がそう呼んだのが始まりだ。



十二天将も、歳が近く見える朱雀や白虎などと打ち解けているようで此方も一安心と言ったところか。



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