平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
燭台の火が消え横になると、静かに十二天将の気配が現れた。
「姫、あの者が向けるそれには悲しみ、そして愛情が見え隠れしております」
閉じた瞼を開き、声のする方を見ると、勾陣が御帳台の側にふわりと腰をおろしていた。
「姫が真子を大事にする気持ちも分かりはしますが、少し過保護すぎるのでは?」
「……そうかも知れないはね」
自嘲気味に笑う私に、勾陣は一言だけ残して気配を消した。
「私共の第一は姫に代わりはありません。まずは自分の身体と子の事だけをお考えください」
私は暗闇の中で苦笑いを浮かべるしかない。
神は非情なもの、と言われるが、それは式神にも言える事なのか。
女房や式神にこう心配されては、大人しく寝る他ない。
今は訪れた睡魔に、ただただ身を任せるだけだ。
柊杞に見られたら、間違えなく睨まれる様な大きな欠伸をして眠りの淵についた。
時が経つのは早いもので、秋の気配がぐっと近くになった文月の頃。
早ければもうそろそろ生まれる頃だろう。
二条の邸の女房達は、いそいそと準備に追われている。
脇息を背にして真子の爪弾く琴の音を静かに眺めていた。
指導している右近の他は、姿が見当たらない。
静かな空間に、ささっと衣擦れの音が響く。
近頃は忙しく動き回っていた柊杞がすぐ側に腰を下ろし、顔を寄せてくる。
「女御様、先日申し付っておりました安芸の方の事ですが」