平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「安芸の方と言われていらっしゃいますが、今は近衛中将の北の方には変わりありませ」
「……言いたい事は分かるわ。官位は安倍家と変わらないわね、でも全ては乳母殿のお気持ち次第」
続けようとする柊杞を遮り、開いている扇を閉じる。
「無理強いをする気はありません」
熱心に弦を押さえる真子は、やはり育ちのよい姫君にしか見えない。
不満そうにしている柊杞に視線だけ向ける。
「……それでも、あの子が幸せになるのなら、お話でもしてみようかしら」
微かに口の開いた柊杞に笑みを作る。
「彼方に先触れを………私が行きます」
「は?」
頷こうとした柊杞は、直ぐに目を剥く。
まぁ、当然且つ馴染みの光景だろう。
「貴女が行かないのなら、私が直ぐにでも参りましょうか」
わざとの様にくすくす、と笑うと柊杞の低い声が響く。
「女御様、軽はずみな行いはいけません、と常日頃申しておりますでしょう」
そんな柊杞には私は慣れっこだ。それを昔の様に軽く返す。
「ここは桐壺ではないのです、いいじゃない」
「そう言った事ではございませんっ!!」
そして、当然この様な柊杞の形相や声を見聞きするのは初めての真子は、音を奏でていた手を止め、固まってしまっている。
「良いのですよ、続けて。右近も頼みますね」
そう言って腰を上げる私を、右近は苦笑いで見送る。
暫く堅苦しかったのだ。
やはりアタシはこうでないと。
柊杞を振り返り心からの笑みをうかべ、廂に降りる。
「女御様っ」