平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
不安げに顔を上げた安芸の方を真剣に見つめる。
「実は利宇古宇の姫には両親がいません。縁あって今は私のもとに居ますが、ゆくゆくは立派な方の北の方に…と考えています。」
思っている事を話すと、安芸の方は淡々と静かにそれを聞いている。
「身分のはっきりとしない者を私の義妹とする事は、少し憚れます。……しかし、後見は私がしっかりと勤めます。もし安芸の方が嫌でなければ、利宇古宇の姫を養女にする事を考えて貰えませんか?」
話の流れから、察していたであろう安芸の方は、最後まで聞くと黙ってしまった。
これ以上は何も言う気はない。決めるのは安芸の方自身か……はたまた真子を加護している神か……。
全てはもう、運命である。
暫く沈黙の続いた後、安芸の方が静かに口を開く。
「……私は初めてあの姫を女御様のお側で見掛けましたおりから、娘と重ねておりました」
「直接お話した事はそう多くはありません。ですがまるであの子と話している様で……」
そこまで言うと、亡くなった姫君を思い出したのか、薄らと濡れた瞳で私へと返す。
「女御様の申し出をどうして断る事が出来ましょう、喜んでお引き受けいたします」
そう言うと安芸の方は、もう一度深く頭を下げた。
「まだ利宇古宇の姫には話していないのですが、暫く二人で過ごして見ては如何です?卓巳君の事ならこの中将の君にお任せ下さい」
一礼した柊杞と二三度ぱちぱちと視線を合わせると、安芸の方はもう一度頭を下げ、了承した。
そこまで話し、後事はまた報せる事となり、その場を辞した。
西の対に戻る道すがら考える。
安芸の方が真子と姫君の方を重ねる様に、きっと近衛中将殿もこの話を受けてくれるだろう。
そして、真子は聡い子だ。