平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
その夜のうちに真子を呼び、しばらく安芸の方の邸に行くことにを提案した。
真子は本当に頭の良い子である。
すぐに笑って頷いてくれたが、その瞳は不安の色を映していた。
私が此処に留まるよう言ったのだ。………そして此処を離れるよう言ったのも私なのだ。
私の勝手と言えば勝手である。真子にしてみれば「用はない」と言われたように感じているかもしれない。
取り繕ってはいるが、そんな表情が見え隠れしている。
下がっていく真子の背を見送りながら、私が考えた事なのに、遣る瀬ない気持ちになる。
そんな私の心を読み取ってか、柊杞が体を乗り出す。
「女御様、私にお任せ下さいませ」
それだけ言うと、柊杞は一礼して真子の後を追っていった。
「真子様には神が付いています、きっと一番良い方へと転がりましょう」
沈んでいる私を気遣って朱雀が励ましに現れた。
「勾陣も言ったようだけど、貴女は自分の事だけ考えなさい」
太裳も一応は心配してくれているらしい。
「もし、これで離れてしまったとしても、真子様は聖凪様を恨んだりなどなされません、きっと聖凪様のお気持ちをお分かりになります」
恨まれる事はいい、真子は生きる気力を持って平和に暮らしてくれさえすればよい、後は私が守ってみせる。
ただ、やはり側近くに置いて成長を見守りたかったという気持ちが強すぎただけなのだ。
聞き分けのいい真子はきっと、明日の昼にでも安芸の方の“宿下がり”に伴う事になるだろう。
切なくなる気持ちは、やはり親の変わりでいたかったのだろう……