平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



姫宮が生まれてからと言うもの、二条の邸の女房たちは暇を見つけては西の対にやってくる。



そして、少し前に風邪をこじらせた卓巳君も久しぶりに顔をだした。



「姉上っ」



元気な声を聞き、飛び込んでくるだろうと体制を整えるが、予想外に衝撃はいつまで経ってもやってこない。



声のした方に視線を巡らすと、駆け出したい気持ちを堪える様に、女房と妻戸から入ってくる姿が目に入った。



私が首を傾げると、当然後ろから着いてきていた安芸の方が微笑む。



「本日は若君がお生れになった日なのです」



そう言って、私の前に当然の様に腰を下ろす卓巳君同様に、気恥ずかしそうに微笑む真子の隣に腰を下ろした安芸の方が付け加える。



「まぁ、落ち着いているのはそのせいなのね。卓巳君、姫宮の事を頼みますね」



そう頭を撫でると、卓巳君は元気良く頷く。



そうして、乳母に抱かれている姫宮の下に寄ると、今しがた自分がそうしてもらったように、姫宮の顔を優しく撫でた。



それを集っていた女房と共に、優しく見守るのだった。



将来的には、この邸は卓巳君が継ぐ事になるだろう。そうすれば、今卓巳君に言った事は、「兄として頼みます」から「後見として頼みます」に変わってくる。



お祖父様ももうお年で、そうなるのはきっと遠い日ではないだろう。



そう考えると、やはり卓巳君の成長は嬉しく、頼もしく思える。



まだ甘えたい盛りで、寂しさを我慢している卓巳君はきっと強く優しい人間に育つだろう。



まだ見ぬ先の事に思いを馳せて、自然と顔がほころんでいく。



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