平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「あら?」
先程まで卓巳君が座していた場所に、笛が忘れられていた。
これは先程、習いたての笛を聞かせてくれた卓巳君の物で間違いないだろう。
「それを卓巳君の所へ届けて貰えるかしら」
「はい」
笛を手にした真子にそのまま任せると、ふわりと笑いそのまま西の対を後にした。
「利宇古宇は本当に優しい顔で笑うわね」
「はい、本当に。きっと桐壺の者たちともすぐに打ち解け、可愛がって貰えましょう。」
私を安心させるためか、柊杞は桐壺に仕える面々の話をする。
「あんな可愛らしい利宇古宇の姫が、女御様にも劣らぬ霊力の持ち主など思えません」
真子が陰陽道を学んでいる事は、西の対にいる者は皆知っている。
加えて私があまりに熱心に指導するものだから、真子は大層な力の持ち主だろうと女房たちは考えたのだ。
その考えはあながち間違ってはいない。だが、異形の血が濃い分潜在能力は私より真子の方が高い。
力を持つ者は、それを抑える力も持たなければならない。私は真子にそれを一番強く言い聞かせている。
真子は頭も良いし、教えた事をするすると自分のものにする。
そのうち、多少危険だが、実戦もさせるべきだろう。
自分の力がどれほどのものが知っていなければ、間違いだって起こってくる。
………出来れば内裏に戻る前に済ませたい。