平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



どのように事を起こそうか、思案していると私の目の前に逆さに現れた白虎がちゃちゃをいれる。



「卓巳の所に行って、間違えて“あれ”を自分でどうにかしようとか考えたら、どうするよ?」



髪に触れるふりをしながら白虎を振り払うと、周りの女房たちに気付かれないよう微かに睨む。



白虎じゃないんだからそんな心配はいらない。



だが、“あれ”を何か知らない真子ならば卓巳君に何かある、と心を乱す可能性はある。



自分でなんとかしよう等、軽々しい事はしない子だが、産後一月も経ってない私を心配して相談しない事は考えられる。



若干、ほんの少し目を細めた私に柊杞だけは気付いた用だが、厳しい目を向けてくるだけに終わった。



──────…………‥‥



早目に事を済まそうと考えていたが、いいだろう。



この件を使っておこう。



そう決めると自嘲めいた笑みがこぼれた。



こんな事を考えるあたり、私は本当に異形の血を引いているのだ、と実感できる。



陰陽師は非道なもので、更に異形は魔のもの。



それは例え母になろうとも、変わらないもので、こんな私の娘である、この生まれたばかりの内親王が哀れにも思える。



この陰陽師の面も異形の面も、人には見せないようにしているが、それは私の中の根本的な所に深く根ついているもので、どうやっても取り除けないのだから。



あのお二方は、こんな私をどう思うだろうか。私が気付いた事には気付いているはずだ。



一度合った視線だ。



その中に込められた願いも、今ならよく分かる。



分かるからこそ、鬼だと怨まれても仕方がない。



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