平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
朱雀はそれだけ言うと姿を消した。
気配だけを辿れば、北の対からは十二天将の多数が居る。
居ないのは騰蛇、勾陣、先程、太裳とやり合った青龍、玄武と二人を宥めているであろう貴人。
後は此処に控えている天空。
「貴男は行かなくて良かったの?」
「……そのまま返そう」
短く返って来た問に笑ってしまう。
「私はそうね……お二方には私の力が入っているもの。直接見る事は出来ないけれど、感じる事は出来るわ」
わざとらしく肩を竦める私に、天空は口角を上げた。
「行きたくて堪らないのは本当は自分だろうに」
無言で微笑む私に、天空はふっと笑った。
「望むならば、人には見つからぬよう連れていく事も出来るが」
天空の甘い誘いに心が揺れる。
自分だって行きたいのを我慢して、我慢して、漸く朱雀を見送れる程度にまでなったのだ。
気分を紛らわす為に、天空へと手を伸ばす。
「私を甘やかさないで」
くいっと、天空の耳を引っ張る私に天空は、不機嫌な視線を向ける。
「一番深い処で主なのだから、しょうがないな。十二天将は皆そうだ。」
「それでもよ。私にも間違いはあるわ、それも沢山。気付けない事がほとんどよ。それを正してくれる人がいないと」
口を尖らせる私に、天空は柔らかな笑みを浮かべる。
「甘やかすな、と言いながら、お前は甘えるのだな」