平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
優しい空間は遠目から見ても、羨ましくて、切なくて、悲しくなる。
でも、それ以上に自分と同じ境遇にある幼い少年の、例え一時であろうと、夢のように儚いものであろうと、幸せは嬉しく思う。
「母上」
呟くと一粒の涙が零れる。
温もりを思い出すと涙が溢れる。自分も強くならなくては。
「姫?」
振り返ると義母が首をかしげていた。
「どうしました?このような夜更けに」
側まで近づいて来た義母は軽く目を見開く。
伸ばされた義母の手は、とても温かく優しくて、自然と義母の手に自分のそれを合わせた。
涙を拭ってくれていた義母の手は止まり、変わりに優しい笑みが残る。
「どうしました?」
もう一度かけられた問に、静かに首を振る。
「……小さな幸せを見届けに」
義母は優しく頷く。
「そう。でも、見届けるだけでなく貴女も幸せにならなくてはね。きっと、それを望まれているわ」
誰が、とは言わない。
私はこんなに優しい義母に想われているのだ。それは本当に感謝し、幸せな事。
そして私も義母に幸せであってほしい。
「母上、私は幸せです」
そう微笑むと、母も嬉しそうに頷いた。