平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
奇妙なくらい静かな対屋でじじっと、燭台の灯りだけが音を立てる。
「……確かに。」
父は難しい顔をして顎へと手を当てる。
私もため息をつき、目の前で昏々と眠る我が子を見下ろす。
「私の子ですから当然、霊力が在るだろうとは思ってはいましたが……」
「驚いたな。東宮にその気はなかったのであろう?」
問うてくる父に無言で頷く。
「薄まっていた力が、そなたと交わった事により活性したのかもしれんな」
うむ、と唸っている父に肩を落とす。
「まさか、霊力ではなく神通力を持って生まれくるとは……これでは異形のものの滑降の餌食です」
「云わずと知れた天照大御神の末裔であるからな」
「ただでさえ宮家は異形に狙われやすいのに、直系のこの子はどれほどのものか……父上っ」
悲痛な顔をする私に、父は苦笑する。
「案じずとも、私がしっかりと護るし、新しい女房の少女にそなたもおる。」
私の肩に手を置く父に力なく頷く。父に絶対の信頼を寄せてはいるが、胸が騒ぐのだ。
自分の子がこうまで可愛いとは、私もちゃんと人の子なのだな。
「それに、この姫宮が大きくなったら自衛の術を教えればよいだけではないか」
「いいえ」
間髪入れずに否定し、ゆっくりと首を横に振る私に、父は首を傾げる。
「いいえ、とはどういった事だ?」と言っているような父の視線を受け、父を真っ直ぐに見返す。
「直感です。」
「直感?」
私の言を繰り返す父に一つ頷き、先を続ける。
「神通力を持って生まれたとしても、この子は陰陽の術を扱えないでしょう。」