平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



それから十数日の間に何度かお召しがあったが、今宵は日が落ちると貴雄様が何の前触れもなく桐壺においでになられた。



「是非会ってみたい人が居たもので」



詫びれた様子のない貴雄様に柊杞はため息をついている。最近の柊杞は東宮であるはずの貴雄様にも容赦がない。



貴雄様は姫宮の居る桐壺に来ると、どうも自分まで幼子に戻ったように明るく笑われる。



ご多忙の身なので、姫宮が調度よい息抜きになるなら、なるほど、貴雄様の言った通り幼く自覚がないながらも父想いのよい子のようだ。



「会いたい人といいますと…」



予想がついた私が見返すと、貴雄様は優しく微笑まれる。



「ええ、利宇古宇の君ですよ」



名指しされた真子は離れていた所からも分かるほど、身体を強ばらせる。



「若い役人達が噂をしているのをよく耳にしますよ」


“利宇古宇の君”を見つけてか貴雄様はふふっと笑う。



「桐壺に年若く大層愛らしい女房が入った、と専らの噂です。」



貴雄様の話に思い当たる節があるのか、控えていた数人の女房が何度も頷いている。



「だから近頃、桐壺の周りをうろつく輩が増えたわけね」



ふむふむと頷いている天后に真子がぴくりと反応するが、すぐに俯いてしまう。



「此方にいらっしゃい」



真子に呼び掛け、柊杞に目配せをすると柊杞は頷き、控えていた女房も下がって行く。



おずおずといった感じで側近くまで寄ってきた真子を、貴雄様は満足気に頷く。



「女御からはよく話を聞いています。まるで妹のようだと」



ですが、と貴雄様は首を捻る。



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