平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「女御は妹のようだ、と言いますが、女御の話を聞くと姉と言うよりも母のように思っているようです」
「女御と私には余りにも大きな子になってしまいますが、女御が妹と思うならば私にも妹同然です」
それもこの様に愛らしい妹なら大歓迎です、と付け加えた貴雄様に真子は恐縮しきりで、小さく固まったままだ。
「いずれは良き縁組みなどもありましょう、ご自分を大切になさい」
そう言って、ご自分が持っておられた男物の扇を手渡される。
私も驚き目を見開いたが、普段おとなしい真子の仰天ぶりは凄いものだった。
「わ、私のような出自のはっきりしない卑しい者にこのようなっ」
真子は受け取ってしまった扇をどうすればよいのかわからず、壊れ物を扱う様に両手でそっと支えている。
私は、大事に育てたい姫がいる、と打ち明けていたのだがここまで考えてくれていたとは、嬉しい気持ちで胸がいっぱいになる。
扇なら女物も直ぐに準備出来るはず、それなのに敢えて自分の物を渡すなど……
邪な考えを持った者が近付かないよう、東宮の縁者である、と守ってくれているのだ。
未だ開いたままの真子の手を、自らの手で扇ごと包み込む。
そのまま貴雄様を見返すと、優しく目を細められる。
「なんです?貴女も欲しかったのですか?しかし残念ながら、貴女にはありませんよ。貴女に手を出す愚か者は居ないでしょうから」
「そうですわね、私に手を出すと命の危険がありましょうから」
冗談で返すと、貴雄様も軽く笑い、すっと私に手を伸ばされる。
「代わりに貴女の物を頂戴して帰りましょうか」
「このような物でよろしければ」