平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
ブワリと渡殿に一番近い御簾が跳ね上がった。
御簾が大きく翻ったことで、傍にあった几帳が派手な音を立てて倒れた。
しかし、お陰で侵入者の姿が露になった。
咄嗟に柊杞が立ち上がりアタシを隠し、アタシも単衣の袖で顔を隠した。
いきなりの侵入に柊杞が抗議すると思っていた。しかし柊杞の怒鳴り声は聞こえず、替わりに凄く驚いた声が聞こえた。
「と、殿っ!!どうして此処に!?まだ、大内裏にいらっしゃる時刻では…?」
「御義父上から、文が参ってな…急ぎ帰ってきた至大だ。」
「聖凪、大事な話がある。心して聞きなさい…柊杞もだ。」
何時になく真剣な顔のお父様に、自然と背中が伸びる。柊杞もアタシの半歩後ろに腰を下ろした。
「…聖凪、そなたの東宮様への入内が決まった。」
「…え。」
余りにも唐突で、何を言われたのか理解出来なかった。
「御義父上が決められたそうだ。もう話は進んでいるようで…今年中には内裏に入る事になるようだ。」
そう言って、お父様は難しい顔をし深いため息をついた。