平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「入内…にございますか?」
柊杞が恐る恐るといった感じに訪ねると、お父様が重々しく首を縦に振った。
「しかし、このままでは身分が相応しくないため、裳儀の後御義父上の処に養子に入らなければならない。」
「大殿様の処へ…」
対屋全体を沈黙が埋め尽くした。
いや、先程の父のたてた大きな音で東側の部屋で寝ていた妹が目を覚ましたようで、子供の泣き声だけが響いていた。
アタシが入内。
東宮様の許へ。
全く頭が衝いていかなかった。アタシの様な身分で入内…いくらお祖父様が大納言であろうと、お父様はまだ正殿を許されたばかりなのだから。
「私は、今から御義父上の二条のお邸に向かうが…聖凪も行くか?」
先程から一言も話さないアタシにお父様が気遣わしげに声をかける。
お祖父様の処へ…。
「アタシも行きとうございます。」
今までに無いくらい、真剣にお願いをした。
今はお祖父様に、直接お話を伺いたい。自分がどうして入内することになったのか。
お父様は頷き、柊杞に「支度を…。」とだけ言い渡し対屋を出て行った。