平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
久方ぶりに遣ってきたお祖父様のお邸は、以前と全く変わっておらず、さすがは大納言様と思わずにはいられない。
車宿から真っすぐに、案内役の女房の後をお父様と着いて行く。
寢殿に入ると、来客があったようでアタシは真っすぐに未簾の内に入る。
お父様は案内役の女房に「何故、来客があることを言わなかったのか」と叱責していた。
アタシはお祖父様の会話の邪魔にならぬよう、奥の廂に静かに移った。
昔はよくここでお祖父様に可愛がって貰っていた。その頃からすると、まだ若いと思っていたお祖父様も急に歳をとって見える。
ふと庭に目をやると、さざんくわが綺麗に咲き誇っていて、少し心が跳ねた。
少しすると、お祖父様とお父様が話す声が聞こえて、アタシもそこへ呼ばれた。
お祖父様の前の畳に勧められ、お父様より半歩下がってそこに座る。
アタシが座ると、お父様は頭を深々と下げ驚く事を言っていた。
「本日は内大臣への昇格の儀、心よりお慶び申し上げます。」
「そのように、かしこまらんでもよい。私とそなたの仲ではないか、顔をあげなされ。」
頭を下げるお父様に、お祖父様がとても機嫌が良いのか、カラリと大きく笑っていた。
「北の方は息災か?近頃は文の一つもよこさん。まったく。」
「ええ、すこぶる元気にしております。」
二人は固まっているアタシを差し置いて、はははと笑い合っている。