平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
…なるほど、それでアタシなのですね。お祖父様の一人娘のお母様もお父様に嫁がれて、お若いうちは娘に恵まれなかったからアタシが…。
「それでも、お祖父様?ワタクシ以外にも、お祖父様には沢山の姫君が居られるではありませんか?」
そう、アタシには母方の従姉妹姫が沢山いる。
だけど、お祖父様から返ってきたのは意外な言葉だった。
「姫が、母の血を受け継いでいるからか、一番見栄えがよいのだよ。」とお祖父様は悪戯っぽく笑った。
アタシは恥ずかしくて、「まぁ」と俯いてしまった。
「とにかく、入内は決まった事だ。晴明殿もよろしいかな?」
お父様も少し複雑そうな顔をしていたが、「はい」と返事をしていた。
「…それで、姫の裳儀はこの邸でしようと思うのだが…それは、やはり急すぎるか?」
「いえ、そのような事はございません。ですが、こちらでも妻や女房たちとこれまで準備をして参りました。ご迷惑でなければ、それをお使いください。」
「そのように気を遣うでない。今まで心を込めて準備をしてきたのであろう、喜ばしいことだ。これで私も、入内の準備に専念できる。」
「妻も喜びます。」
「それで、入内の日取りを晴明殿に占じてほし…姫、今ちょうどそなたの従兄弟の卓巳(タクミ)が北の対に来ておる、遊んでやってくれぬか?妻も喜ぶ。」
今から、お父様と大事な話があるのだろう。アタシは言われた通りに北の対のお祖母様の所に向かった。