平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
北の対の御簾は上がっていて、女房たちと卓巳君が遊んでいるのが見えた。
「お祖母様、お久しぶりです。お身体の調子はいかがですか?」
「まぁ、聖凪いらしていたの?ええ、最近は良かったのだけど…今日は少し胸が重いようなの。」
お祖母様は脇息に寄りかかり、少し疲れた様子だったが朗らかに笑ってアタシを迎えてくれた。
「お疲れのご様子ですし、横になった方がよろしいのではありませんか?」
「孫が二人もいるのに、横になるなんてもったいなくて…私は貴方達の愛らしい姿を見ていると元気になる気がするのですよ。」
ふふふと笑い、卓巳君を呼んだ。
「卓巳君?安倍の姫がいらしゃっていますよ。」
すると、乳母と共に卓巳君が廂の方から駆けてきた。
「あねうえっ。」
「お久しぶり、卓巳君。少し見ない間に、大きくなったのね。」
「はやくりっぱなおとなになって、おばあさまのおやくにたちたいのですっ!!」
そうやって、胸をそらす卓巳君は実の弟のように可愛らしく、頭を優しい撫でた。
「だったら、お祖母様が早くお元気になられる様に、お呪いをかけなければいけませんわね。」
瞼を閉じて、手の平をあわせて回復の呪文を唱える。
─悪しきは退散し、聴こえるのは神の息吹き─
合わせた手を三回叩く。
さーっと風が対屋を吹き抜けた。