平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「…とりあえず、本日は裳儀ということで、成人おめでとう。」
「ありがとうございます。」
普段は好敵手心むき出しのアタシたちだけど、今日はお互いに頭を下げる。
そして、未だにたったままの二人の背中を兄上が、ポンッと押す。
「ほら、二人ともっ。」
なんだかんだで、この部屋に兄妹全員が集合したことになる。
「…」
「…っ」
「…ん?」
いつまでも何も言わない二人に、首をかしげる。
「あ、姉上…えっと、その…。」
「「…おめでとう…っ。」」
照れくさそうに、二人が俯きながら頭を掻く。
「ふふ、ありがとう、榊(サカキ)桂(カツラ)。」
「別に…」
「俺達は、姉上が居なくなって嬉しいんだからっ…な、榊?」
「ああ…邸が広くなる。…ウチはあまり広くないから。」
双子たちの会話を見て、アタシと兄上は目を合わせて、笑ってしまった。
「ぷっ!!全く、素直じゃないんだから。」
「本人の前では、本心は隠す物だよ。二人とも、来年には出仕することになるんだから、覚えなさい。」
「兄上ー?本心は…って何ですか?本心はって!!」
「ははは…」
「ははは…じゃないですから。全く兄上は、それでも大人と言い切れるのですか…。」
そういい、アタシは此処で過ごす最後の時間を、兄妹で笑いあって過ごした。