平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
兄妹全員で過ごすことは最後だろう時間を、冗談などを言い合ったりしていると、対屋の女房達がざわざわとし始めた。
一応主人なのに、廂の端に集まっているアタシと兄は、微かに眉をひそめる。
まだ幼い、弟や妹は解ってはいないけど、アタシたちは理解出来る。
───この時間も、もうお終い。
「兄上、アタシの分までこの子たちの事を頼みます。」
「ああ、勿論。お前も頑張れ。」
今まで気に掛けて貰っていた事に対し、誠意を込めて深く頭を下げる。
その光景を弟たちが、不思議そうに見ている。
アタシにはそう見える。…だけど違うのかもね。
榊と桂はもう二月もすると元服だもの、本当は頭の中では気付いているのかもしれない。
遠くの方で、「殿」と言う声がする。本当にもう最後…。
「榊、桂、翡翠、聖…。幸せになってね。」
そう言うと同時に、お父様が御簾の中に入って来た。
「姫、刻限だ。」
いつもは、名前で呼ぶお父様も今からは違う。
「はい…。」