平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



アタシが立ち上がると、聖が再び瞳に涙を浮かべる。



そんな顔で「あねうえ」と悲しそうな声を上げられると、アタシまで泣きそうになる。



「聖、笑うとね?良い事が起こるのよ。」



聖の頭を一つ撫で、もう二度と踏み入る事はないであろう対屋を出る。



アタシも流石に瞳にうっすらと涙が広がる。



すると隣で兄上が呟く。



「笑うと良い事が起こるんだろう?」



久しぶりに頭を撫でられる。兄上の少しぶっきらぼうだけど、どこか優しい撫で方もこれで最後。



アタシはお母様と車に乗る。久しぶりの空間で、久しぶりの母との会話。



「お母様…アタシ、うまくやっていけるかしら?」



やっぱり、母と娘という関係に加えて弟たちが居ないという事もあり、ついつい幼子のように甘えが出てしまう。



アタシが不安そうに訪ねると、お母様は笑って応えた。



「大丈夫よ、だって姫は私の娘だもの。こんなに自慢出来る姫は、他の家にはいらっしゃらないでしょうに。」



お母様は今が女の盛りで、悪戯っぽく微笑む様が娘のアタシから見ても素晴らしく映る。



「もしかしたら、姫は私と帝上の間に産まる運命だったのかもしれないわね。」



「この事、父上には黙っておいてくださいね。」と可笑しそうに冗談を言うお母様につられて、アタシの強ばった顔まで、いつの間にか笑みが浮かんでいた。



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